どうして今、ナイトロックスなのか

動脈や静脈を流れる血液は、私たちの体の中で、窒素の灌流と拡散が、最も速やかに行われる区分です。

けれども、これまでのところ、ダイビングの計画や管理に使用される一般的なダイブテーブルはもとより、ダイブコンピューター、ダイビング計画ソフトウェアなどのベースとなるアルゴリズムには、実は、この肝心の血液は含まれていません。

上記の図は、血液ほどではないものの、主要な内臓や神経系統(脊髄につながっている)など、いわゆる”かなり早い組織”の区分を理論的に想定し、窒素の灌流と拡散の推移を、深度と時間軸の中で類推したものです。

内臓などを司る神経系統 出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/自律神経系

実際のところ、私たちの体は千差万別で、それぞれの人の、心臓からの血液の拍出量や新陳代謝レベルなどには個人差もあり、これらの理論上の推移が私たちの体の中で、この図どおり、忠実に起こっているかどうかは明らかではありません。

けれども、この理論的な類推によれば、これらの”早い組織”の区分は、潜行を始めてから2分後には、飽和レベルはすでに50%に達し、12分後には完全な飽和に達しています。

そしてこの深度に止まる限りは、灌流と拡散が均衡した飽和の状態となっていることを、明らかに示しています。

この、”かなり早い組織”が、完全に飽和し、そして均衡状態となる深度は、たったの5.5メートルに過ぎません。

そしてこのことは、この5.5メートル深度からの水面への浮上は、このように飽和に達している”かなり早い組織”の区分にとっては、実は、注意深い減圧の手順が必要なプロセスであることを教えてくれています。

近年、深度3メートルでの減圧停止が必須とされ、ゆっくりした速度での水面への浮上が、強く推奨されることになってきている所以でもあります。

安全なダイビングを、真摯に旨とするダイバーの方々は、深度3メートルから水面への浮上を、約1分間ほどかけて行うことを実践しています。

これは具体的には、3メートル=300センチを1分=60秒かけて浮上する、つまり毎秒5センチの速度での浮上です。

私たちの血液、最も早い組織の区分は、地上の大気圧下では、すでに飽和しています。

地上大気圧下(絶対圧1)での空気の呼吸

この図では、水色の部分を一貫して窒素が占め、そして一番右の静脈血の圧力、つまり、私たちの体組織で酸素を使用し、エネルギーを燃焼させた後の血液の圧力は、その酸素が燃焼に使われた分だけ、負圧になっているのが分かります。

この負圧の部分を、酸素ウィンドウと言い、これにより、肺胞で2酸化炭素と酸素のガス交換が行われることになります。

もうお気づきと思いますが、この酸素ウィンドウが大きくなればなるほど、ガス交換がより多く効率的に行われ、ことダイビングにおいては、窒素の排出が、より速やかに行われる、ということになります。

水面下6メートル(絶対圧1.6)でのナイトロックス32%の呼吸

このように、あらかじめ酸素の分圧を上げ、窒素の分圧を下げた呼吸ガスであるナイトロックスは、私たちの肺胞でのガス交換の効率を、特に水面下、すなわち高圧の環境下では、飛躍的に高めることができます。

ナイトロックスは、古くは1800年代から、様々な実験や開発が進められてきました。

ダイビングへの本格的な応用に至る経緯は、1970年代に、NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration, アメリカ海洋大気庁)によって、ナイトロックスの科学的な使用の開発が着手されたことを端緒にしています。

そのNOAAに、当時永年の勤務をしていた、ディック・ルコウスキ氏が退職し、1985年に自ら設立したのが、IAND(現在のIANTD・インターナショナル・アソシエーション・ナイトロックス・テクニカル・ダイバーズの前身)です。

今、IANTDでは、永年にわたるナイトロックスの実践経験と築いてきた知識を、一般的な、いわゆるリクレーショナルダイビングの分野での安全管理にも活かすべく、ナイトロックス・ダイビングの教育と普及に尽力しています。

お問い合わせは、さわみしん sawaumishin@gmail.com までお願いします。

投稿者:

さわみしん

ボルネオ島の出入り口、ブルネイにいます。世界最古の生態系を誇る熱帯雨林を背に、前に南シナ海が開けています。ここはアジア・モンゴロイド圏のほぼ中央に位置し、古くより四方との交易の要所の役割を果たしてきました。 そして多くの民族や文化の交わりが幾多の波乱の歴史を産み、今もその躍動は継続しています。 南方にはスンダ列島、そしてはるか東方には台湾や日本が臨まれます。 

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